第3章 家は現地一品生産

・家は現地一品生産品
 当たり前のことですが、全ての建物は特定の場所でしかも一つだけしかつくられないものです。またうまくできなくても、不動産と呼ばれるように簡単にどこかに持って行けるものでもありません。

 そのような特性が建物にはあるため、店で買ってくる一般の商品とは異なった「仕組み」で作られています。ほとんどの商品はユーザーに引き渡される時には完全な形をしています。作られる過程で発生する不良品や欠陥品は、工場などで前もって検査を受けるため出荷される前に取り除かれ、ユーザーの手に渡らないようになっています。しかし建物はその場所に材料を持ちこんで、その場所でつくらなければなりません。うまくできなかったといって途中で辞めてしまうことは困難ですし、不完全な物ができたからといって返品するわけにもいきません。当然検査をするにも、物を持って行くのではなく検査をする人がその場所に出向かなければなりません。






 工場では同じ図面で何万個の物をつくりますから、作る人も検査をする人も、だんだんその商品に対して熟練していくことが期待されます。しかし建物は一つの建物に一つの図面しかありませんから、今回使った図面がどんなに良くても別の敷地で新しい建物を建てる時に全く同じ図面を使うことはできないのです。

 検査にしても毎回異なる形、工法、仕上げの建物を相手にしなければいけません。もちろん検査員だけでなく、家をつくる職人も毎回違う建物をつくっているのです。

 うまくできなかった建物についても、その部位によって建物に対するダメージ度が異なります。例えばクロスの柄が決めたものと違っていたり、キッチンの扉に傷があっても基本的には取り替えてしまえば、なんの問題もなく生活することが可能です。

 しかし、建物の基礎や柱などの構造体、屋根やバルコニーの防水などに欠陥があると、生活していく上で建物が非常に危険で不健康な状態になります。このような建物にとって重要な場所は、建物が完成してからでは正しく施工されたかどうか判断しにくい場所ばかりです。

 基礎が正しくつくられているかどうかを確認するためには、土を掘って基礎の大きさや深さを確かめたり、一部を壊してみなければわかりません。また柱や梁が正しく組み合わされているか確認するためにも、壁をはがしたり屋根裏に上ったりしなければ確認することはできません。ですからいわゆる手抜き工事は、このように建物が完成してからでも見える表面上の部分よりも、建物が完成すると見えなくなる隠れた部分に多く発生します。目に見える部分で手を抜いても結局すぐに見つかってしまいますから、手を抜こうと思えば、「見える部分はある程度丁寧にしておいて見えない部分で手を抜こう」と考えるのは、人間の心理としてごく自然なことかもしれません。

 このような建物にとって重要な部分の検査は工事中に行い、おかしな所があれば速やかに是正しておく必要があります。もちろん建築主がそれをできればそれに越したことはありませんが、建築主が構造体が安全であるかどうか工事中に検査するのは時間的にも知識の上でも困難な話だと思います。