第5章 敷地と道路の関係

 家を建てようと思った時に、一番密接にかかわってくる法律が「建築基準法」です。先に出た「建築確認申請」や建物の検査についても、ほとんどがこの法律の範疇に入っています。  この法律によって、あなたの土地に建てることが可能な建物の大きさや間取りは制限を受けるのですが、実際には極端に背の高い家や、窓のない家などを作らない限り、普通の家をそこそこの広さの敷地につくる際にはそれほど大きな問題は出てきません。

 しかし特に小さな敷地や、斜面地、入り組んだ道の奥などで家を建てるときには、いろいろと制約がでてきます。

・家を建てられない敷地もある
 例えば極端な場合には市街地でも「家を建てられない」土地も存在します。その中でも一番多いのは敷地が道路に面していない場合です。

 実際には細い路地で道につながっている場合が多いようですが、その路地が法律上の道路でなければ、その敷地に家を建てることはできません。

 しかし現実にはそのような敷地に家が建っている場合もあります。それは建築基準法ができる以前(建築基準法は昭和25年に施行されています)の家であったり、違法を承知で建てた家だと思って間違いありません。そのような家は建て替えをしようと思っても、合法的に建て替えを行うことはできません。

 ではなぜ敷地が道に面していないといけないのでしょうか。一つは防災上の問題です。火事が起きたときに、消火活動ができないような場所に家を建ててはいけないと考えられているのです。

 自分の家は消火してもらわなくても構わないと考える人もいるでしょうが、憲法では国は国民の最低限の生活を守る義務がありますから、自分さえよければなんでもできるわけではないのです。

 また下水道や水道などを市民に供給する義務も行政にはありますから、道路がなければそのような設備を敷地に供給することが困難になるので、それを避ける意味もあります。

 そして、ただ道路に面しているだけでは駄目で、敷地が最低2mは道路に面していなければいけません。それ以上狭くては人や荷物が敷地に入らないと考えられているためです。





 では絶対に道路に面していない敷地には、将来にわたって家は建てられないのでしょうか。そんなことはありません。当たり前の話ですが、細い路地を拡幅して、今ある道路につながる道を新たに作れば問題なく建てることができます。敷地までの道路にあたる部分を4mの幅に拡幅して道路形状にした上で、役所から「位置指定道路」に指定してもらえば良いのです。路地だけでは幅が4mに足りない場合は、隣地の人から不足分を購入しなければいけません。

 当然のことですが、この部分には自分の土地だからといって建物や物置、ガレージなどを建てることはできません。

 役所に「ここは道路としての用途のみで使いますので、これで私の敷地は道路に面していることになり、家を建てることができますね」と確約すると考えてもらえば分かりやすいと思います。当然のことですが、新しく作った位置指定道路に敷地2m以上が面していなければなりません。

・道路後退2m(消防車の問題)

 また今の敷地のままでも道路に面しているのに、敷地の一部を後退させて道路にしなければならないこともあります。

 狭い路地のような道路(狭くても法的に認知されている道路)だとその中心から2mは敷地を後退しないといけません(3m後退しなければいけない地域もあります)。後退した敷地には家を建てられないどころか、塀すら建てることはできません。しかしなぜ道路の中心から2mなのでしょう。本当はそのような道路は、端から端まで両側をズバッと後退させて4mの道路にすれば良いのですが、それには立ち退きしなければならない家も出てくるでしょうし、現実には非常に困難な作業になります。そうであればその道路に面した家が新築にする度に、その敷地の前だけ道路の中心から2m後退してゆけば、いつの日にか(数十年後には)立派な幅員4mの道路ができあがるだろうというのが役所の論理なのです。

 ではその後退した分の土地はどうなるのでしょうか。これは行政によって異なるのですが、そのまま即買い上げてくれる行政もあれば、無償で提供せよ(寄付せよということ)というところもあります。

 また建物だけを引っ込めておいて、所有権は移転せず、なんとなく空き地になっているだけといったケースも多々あるようです。こうなると元々自分の土地だし、周りはまだ狭い道路のままだったりするので、自分だけ損をしている気持ちになって庭の延長としてプランターボックスを置いたりして私物化するようことも多く、結局いつまでたっても広い道路にならないのが現状だったりします。

 この法律の趣旨は、日本中の道路を消防車を通し消火活動をするに最低限必要な幅である4mにすることにあります。阪神淡路大震災での火事を思い浮かべてもらえば分かるように、この道路幅は人命にかかわる非常に大切なことなのです。

・都市計画道路と公共の福祉
  さて道路の問題でもう一つ大きなものに「都市計画道路」があります。これは「都市計画法」によって定められる将来に道路になる部分のことを示します。しかしこの将来の道路をどこに通すかは、その部分の土地を持っているほとんどの人が知らないままに、役所が勝手に決めてしまっているのです。

 本当は勝手に決めているのではなく、広報に掲示、閲覧、公聴会を開催して市民の意見を聞いた上で都市計画決定されるのですが、実際にはそこに住んでいる人が知らないことがあります。  また公聴会を開いて市民の反対意見を聞いても、なかなか計画に反映されることはなく、結局当初の役所の案で決まってしまうことが圧倒的に多くなっています。

 今回の阪神淡路大震災後にも数々の都市計画の決定がなされましたが、このような役所の態度は変わらず、住民参加の都市計画をこの国では否定しているようにすら感じます。

 実際に、家を新築しようと思って役所に行ったら「あなたの土地は、都市計画道路内に入っていますので、建築制限を受けます。」と言われて驚かれた方もいらっしゃると思います。しかしほとんどの都市では数十年前に計画が策定されており、公聴会などもその時に開かれてその後見直しをすることもないために、一般の人はなかなか自分の土地が都市計画道路に入っていることを知る機会がないのです。

 計画道路といっても実際には行政が土地を買収する予算を確保しないかぎり、立ち退きを迫られたり何も建物を建ててはいけないといわれることはなく、前述の建築制限止まりになります。この建築制限ですが、その内容は「将来道路になるところだから、あまり大きく丈夫なものを建ててもらっては困る」というのが趣旨ですので、具体的には木造や鉄骨造など比較的容易に取り壊すことができる建物であれば建てることは可能なのです。

 しかし遠い将来には道路になる土地なので、いつ立ち退きを宣告されるか分からないまま(翌年に予算がつけば、基本的に立ち退きの対象になる)家を建てるのも今一つすっきりしないところでしょう。このような行政の仕組みがあるため、都市計画道路の建設は長期化することが多く、公共の福祉と個人の自由の狭間に立って役所としても苦しいところのようです。