第7章 楽しく生活する間取り
さて最低基準を決めた「建築基準法」や役所の仕事を離れて、実際に自分が欲しい家を考えてみましょう。家は単に寝起きする場だけではなく、生活が営まれる場であることを改めて認識してもらいたいと思います。直接的にいえば誰の為の家なのかを考えてもらいたいと思います。
実際のところ、家をつくる人にとって家の中の一番大切な場所はどこでしょうか。それは年に数回しかこない親戚やお客さんのための空間ではなく、本人や家族が一番有意義な時間を過ごしたいと願う空間にあるのだろうと思います。一般的には居間と呼ばれる空間にいる時間が長いようですが、生活の習慣やこれまで育ってきた慣習によっては、食堂の方がリラックスできると思う人もいるでしょう。
また洋式の椅子に座った生活より畳の生活でないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。そもそも居間や食堂といった言葉で空間を分類することから考え直した方がいいかもしれません。
いずれにせよ、一番大切にしたい時間を快適に有意義に楽しく過ごすことを考えることが、間取りを考える第一歩になるのではないでしょうか。
・吹き抜けはどこに取る
ところで最近の住宅雑誌などを見ていると、居間に大きな吹き抜けを取っている家を見かけます。確かに一番長い時間いる居間の天井が高いと気持ちも良さそうです。
しかしこの吹き抜けにも生活する上で問題がないわけではありません。例えば夏は空間が広くて気持ちが良いのですが、冬場は暖気が天井に上ってしまい部屋はなかなか暖まりませんし、十分な暖房をしようと思うと結構な費用がかかってしまいます。
また敷地に十分余裕がないと、吹き抜けの分2階が狭くなるだけでなく、居間が南面を向いていれば2階に南向きの部屋を取ることができません。このような理由がで、一般的にハウスメーカーなどでは、このようなプランをつくりたがりません。
しかしこれらの問題については、考えようによっては全て解決可能です。暖房が利かないのは暖房器具を対流式と呼ばれる空気を暖めて移動させることで部屋の暖房を行う一般的な方法を取っているために起こる現象です。
天井が高い部屋では暖房方法を空気を移動させて暖を取る方式ではなく、輻射熱暖房と呼ばれる輻射熱を使った床暖房や輻射熱形の暖房器具を使用することにより解決することができます。これらの機種は広く普及していないことで多少割高になりますが、とんでもなく高いものではないので十分に検討することができると思います。
また2階の部屋の配置については、居間の吹き抜けに面した面を有効に使うことによって逆に楽しい間取りを作ることができるのではないかと思います。
住宅の間取りにはこれが正解といった形はありません。敷地の形状や方角、家族の住み方などによって、すべて異なると考えて良いと思います。
・子供はどんな家で育ったか覚えている
私が育った初めの家は、2階が紳士服の仕立て職人であった父の工場となっている2階建ての長屋の1階でした。そこには小学校の3年まで住んでいましたが、東から西へ風のよく通る夏は気持ちの良い家でした。幸い長屋の周りに広い庭があり、当時は周辺も2kmくらい先まで建物が建っていないような所でしたので、家の外も中も区別せずに遊んでいた記憶があります。
それから引っ越したのが、割と密集した住宅街の2戸1戸の借家で、ここは見事なまでに無駄なスペースがない家でした。
この家には9年ほど住んでいたのですが、14坪程度の大きさで収納がそこそこあって、親の仕事場も確保できる家でしたので、なぜか今でも良く覚えています。
感受性の強い時期の子供は、自分が育った家をよく覚えています。私が良くいえば機能的に配置されたコンパクトな家に住んでいたのと、今建築の仕事をしていることは直接は関係ないかもしれませんが、空間の把握については人間の経験は育った環境や体験などにかなり左右されると思います。
ですから子供がどんな環境の家で育ったかで、その成長にはなんらかの影響があると思っています。どのような環境が良いのかは親が判断しなけばいけないことですし、当然経済的な問題も関係します。
しかし大きな家が必ずしも良い空間にならないのと同様に、小さな家だから悪い空間で仕方がないとあきらめることはありません。
・誰でも対面式キッチンが良いわけではない
このように家は家族や個人によって住まい方が異なるはずなのに、なぜか住宅産業にも流行があります。実際に住まい手の生活が変わり価値観が変化したことで、新しい商品が生まれてきたのなら分からなくもないのですが、現実的にはメーカーによって作られた流行であるとの感が拭えません。
他にも間取りの流行の一つに対面式キッチンがありますが、これなどは共働きのわが家のように食事の後に取りあえず片づけものを流しに置いておき先にくつろいでしまう家では、いつまでもカウンターから洗い物が見えてしまいます。モデルルームで対面式キッチンをみると、いつもは片づけを後回しにしているのに「これを付ければきっと先に片づけができるようになる」と思いがちですが、なかなか人間の習慣は変えられなくて結局キッチンは居間や食堂から直接見えない方がよかったなぁと思うようになるかもしれません。
・建材について
最近新建材や接着剤から出る微量な有毒ガスが人体に影響を与え、化学物質過敏症やアトピーをもたらすとの報告もあり、家を建てるときにそのような新建材を使わず安全な材料を使って家を建てたいと考える人も多くなってきました。そのような材料はまだ一般的でなく広く使われていないため、建築主自らがそれらの材料を捜さなければならないような状況です。
ハウスメーカーなどでビニールクロスやホルムアルデヒドの放散が少ない合版などで家をつくろうとした場合には、その建材は特別注文になり量産によるコストダウンがはかれないため割高になってしまうこともあるようです。
このような建材については、その分野に詳しい建築設計事務所を捜すことができれば、設計を進める中で様々な提案をだしてくれると思います。
いずれにしても家に住むのは自分自身ですから、流行などに左右されずじっくりと将来の生活を見据えて検討をしてもらいたいと思います。その時にはいろいろな知識を持った建築家の知恵を借りることも良いのではないでしょうか。