第8章 建築設計事務所とは
・建築設計事務所の仕事
「建築設計事務所に相談するといっても、私が建てようと思っている家は芸能人やお金持ちのお屋敷じゃないし、お金もそんなに掛けられるわけじゃない」と思われる方も多いでしょう。しかし実際に建築設計事務所の部屋の中を見たことがない人がほとんどでしょうし、少なくとも建築設計事務所がどのようなものなのかを知ってもらうために、どんな人がどのような仕事をしているのか紹介します。
建築設計事務所では住宅の設計などやっていないように思われている方もあると思いますが、多くの事務所では普通の住宅の設計もおこなっています。
また設計のほとんどが住宅であるという住宅を専門的に設計しているような建築設計事務所も存在します。
もちろん企業相手の大きなビルやマンションの設計しかしない事務所も存在します。一般的に住宅は建築主が建築に関しては素人であるため、マンションや大手の企業の建築担当者と打ち合わせする場合と比較すると、専門用語の一つを説明するにもどうしても手間がかかってしまいます。
また建てる建物の規模も住宅と比較すると、企業を相手にした方が大きいので設計料も高くなります (建物が大きくなると、それだけ建物も複雑になり業務も増えるので設計料も増えるのです)。そのような理由で利益追求形の事務所では、あまり住宅設計をやりたがらないのも事実です。
しかし建築の設計の原点は住宅にあると考えている事務所所長も大勢います。多くの設計事務所では、個人からの住宅の依頼も企業からの依頼も同じように受けています。
・そのイメージと実際のギャップ
建築設計事務所と聞いて多くの人は、製図版が整然と並んだ中で黙々と設計を行っている技術者や、模型などを見ながらパイプをくゆらしている建築家などのシーンを思い浮かべるのかもしれません。
大学の建築学科の学生ですら、おしゃれで格好の良い職場として建築設計事務所をとらえている者もいます。ところが大学から夏休みなどを使ってあこがれの建築設計事務所にアルバイトに行ってみると、その実際の業務と幻想のギャップを知って、そのまま建築設計事務所への就職をあきらめてしまう人もでるくらいです。
そこそこ人数のいる建築設計事務所では、複数の物件が同時に進行していて、昼間は企業の担当者との打ち合わせや、役所や現場に行ったりして不在にしていることが多く一日中バタバタと走り回っています(私も大学を出たての頃は、事務所の中を歩いている時間も惜しくて、本当に走っていました)。役所では建築確認申請などを提出するための前打ち合わせを行ったり、図面の訂正をしたりしています。現場ではゼネコンや工務店との打ち合わせを行ったり、現場の各種検査や企業の担当者を交えた会議などを行っています。
そんなこんなで実際に図面を描くのはほとんどが夜になってしまい、また十分に検討して少しでも良い建物をつくろうとすると、勢い夜遅くまで残業することになったりします。
これに加えて住宅の設計の担当になると、大概の建築主は平日の昼間は仕事をしていますから、当然のごとく打ち合わせは平日の夜か土曜日や日曜日になってしまいます。
そんな中でも本当に建築の設計が好きな人は、残業も苦にならず休みの日にも出所して仕事をしているのです。
これは大きな設計事務所でも小さな設計事務所でもあまり変わりがないようで、5時になったから帰りますといったタイプではとても勤まらない種類の職場だと思っています。
少しばかり建築設計事務所の様子を知ってもらえたでしょうか。もちろん5時でみんな帰ってしまう事務所もありますし、行動規範がお金儲けでしかないような事務所も中には存在します。しかし多くの建築設計事務所では、建築の設計が好きでそれにやりがいを感じている人が、設計や現場監理などの業務を行っているのです。