第9章  設計料の話

・設計料は余分な費用?
 結局は工務店やハウスメーカーに頼めば無料で設計もやってくれるのに、どんなに熱心な人が建築設計事務所で設計をしているからといって、どうして高いお金を払って建築設計事務所に設計を頼まなくてはならないのでしょうか。

 住宅を設計する場合、建築設計事務所に設計を依頼するとどの位の費用がかかるのでしょうか。建築士法の規定に基づき、建設省が業務に関して請求することができる報酬の計算方法を示しています。(平成21年国土交通省告示第15号)この計算方法では、ひとつひとつの建物の設計監理業務に対して直接人件費、特別経費、直接経費、間接経費、技術料等経費を合計したものを報酬額として請求することができるとされています。

 しかし実際には設計を始める前に費用を決めて設計監理契約する場合が多いため、工事額によって標準的な業務にかかる人数・日数を示すことで、設計監理報酬額が算定できるようにもなっています。

 もちろんこれらの標準業務報酬に対する根拠として、これらの報酬を受け取るのに必要な図面の種類や内容、工事監理の内容も示されています。

 これらの算定方法から逆算すると設計監理費用は、一般的な木造住宅で工事費の約16%程度になります。またコンクリート造などの場合ですとそれ以上の費用が必要になります。

 当然これらの報酬は、上記の標準業務を全て行った場合の基準であり、図面の枚数や内容が少なければ安くなりますし、現場監理に行く回数によっても異なることになります。具体的には設計事務所に相談を行った時点で早い時点で確認されておくことをお薦めします。

 それだけ払った上で、特に設計料を出さない場合とどこが一番大きく違ってくるのか考えてみましょう。

 その最大のメリットはいつも建物の専門家が建築主の側にいてもらえることです。設計の途中や工事に入ってからでも、材料や値段について分からないことや迷うことがあれば、すぐに相談することができます。

 また業者の出してきた見積が妥当なのかを建築主に代わってチェックしてくれます。

 必要な時に専門的な内容について工事現場を検査してくれます。建築主が建築中に現場に行った時に疑問点があり不安になった場合でも、その内容について専門的な判断を下し、間違っていれば施工者に指示を出し是正させることが可能になります。

 これらのことは工務店の設計担当者やハウスメーカーの担当者でもある程度対応してくれるでしょうが、工事や見積を行っているのと同じ会社の人がこれらのチェックや説明をするのと、第三者の立場の人でしかも自分が直接契約している人が行うのを比較すれば、その信頼性や安心度が大きく違うのではないでしょうか。

・デザイン料は印刷費に含まれるのか
 この世の中では、依然として無形の価値に対して対価を支払うことに十分な理解がされていません。  私の妻はグラフィックのデザイナーをしています。広告やパンフレット、会社案内など主に印刷関係のデザインをしています。彼女のまわりでも、印刷そのものに費用を出すのは理解できるが、写真や文字をレイアウトするだけの仕事になぜ対価を払う必要があるのかといった声は山ほどあるそうです。

 すぐれたレイアウトを行うためには、日頃から資料を収集して勉強したり、広告を見た人にインパクトを与えるような方法論も考えなければいけません。

 またデザインばかりでなく実際の印刷工程の知識も必要になります。それに加えて近年ではDTPが普及しマッキントッシュやそのアプリケーションの操作を勉強する必要もあり、またその機器の維持費も必要になります。

 対価を十分に払わない場合は、それら全般の技術を持っていない者が対応せざるをえないため、それなりのデザインの仕上がりしか期待することはできません。中にはそれで満足する人もいるようですが、何回か経験すると適正な対価を払ったときには満足する物ができることに気が付いて、それからはきっちりデザイン料も支払ってくれるようになることもあるようです。

 しかしながら住宅の場合多くの人が一生に一回しか建てることがないのです。

 一度経験して「失敗したから今度は」と思っても、今度がない人の方が圧倒的多数だと思います。それだけに十分に考慮して自分の家のつくり方を考えてみて下さい。

・設計料やプランは無料ではない
 基本的に人間が仕事をすれば、それが有形であろうと無形であろうとも、対価が発生することは確かです。ですから設計料は不要ですといっても、実際には何がしかの設計をしなければ家は建たないわけですから、単にその分の費用が他の項目に薄く広められているにすぎません。薄く広めているだけならば、一種のレトリックで実際には項目を変えて支払っていることになります。

 しかし本当に費用がかからないようにしようと思えば、十分な図面も作らず現場の検査もしなければ費用もかかりません(無料だからきちんと行う義務もないともいえますが)。


 「サービスで(無料で)プランをつくります」といった業者も多いかと思いますが、誰かがプランを作る作業を費用を派生させて行っているはずです。そのような業者に家づくりを依頼するということは、プランを作成しただけで最終的に成約しなかった人の分のプラン作成費用も、薄く広められて払っていると考えるのが自然かと思います。

   それを一般の商品と同じように業者の広告費の一部だと割り切って考えるのも一つの考えです。また設計と施工の両方を一緒に受注すれば、施工費の金額は設計監理費の10倍以上になりますから、施工費の中で吸収することは比較的容易なのかもしれません。

  建築設計事務所でプランを作っただけで実際に建物を建てることができなかった場合でも、基本的にはそれに対する報酬を支払う必要があります。他の依頼者の設計料にその分の費用を上乗せするわけにはいきません。

 また順調に建物が建ったとしても建築設計事務所は設計監理料を受け取るだけで、より高額な建築工事費などを受け取るわけではありませんから、プランを作るのに要した費用を他の費用の中に広く薄める手段を建築設計事務所は持っていません。

 とはいっても何回か相談しただけで相談料や設計料が必要だというような建築設計事務所はほとんどないでしょう。

 また家をつくるのに、その設計事務所に依頼するかどうかは、今後長いつき合いになりますので、それぞれの相性の問題もありますから何回か会ってみて、話をするなかで決められるのがよいと思います。

 しかし実質的なプランをつくる作業に入り何日かかけて役所で調査をしたり、机に向かって作業を行った分の実費は最終的にその事務所に依頼することがなくても必要になるのが基本であると考えて下さい。

 しかし建築設計事務所の中にも、このようなプランづくりを広報活動の一貫として無料で行っているところもあります。どうしてもプランづくりの段階では無料でないと困ると思われる方は、そのような建築設計事務所を捜されるか、建てない場合はその間にかかった費用は無料にしてもらえるように前もって申し出ておいた方がいいでしょう。