第11章  契約書の中身

・必要な図面や仕様書とは
 さて契約書に必要な図面や仕様書を添付しない場合の問題をみましたが、そもそも家を建てるような専門的な契約を、建築主が専門家の補助なしで直接施工業者と行うことにも無理があります。

 十分な図面をといわれても平面図や立面図以外にどのような図面が必要なのか、またどこまで詳しい図面を作成しないと契約するのに不足なのかを、最終的には建築主が判断しなければいけません。

 契約に必要な図面とは建築設計事務所に設計を依頼する場合も、ハウスメーカーや工務店に設計から工事まで依頼するときも同じで、建物をどのような構造でどのような形にして、またどのような仕上げでつくるのかが十分に分かる図面全てが必要なのです。

 しかし図面の中には、家具の詳細図や細かな納まりなど現場を進めながら描いても、費用や工期に支障のないものもあります。ただ非常に特殊で加工に多額の費用がかかる家具などは、あらかじめ契約までに図面を作成しておくか、別途工事にしておいた方が、お互いに心配なく工事を進めることができます。

 一般的な住宅で必要とされる図面などは以下のようになります。また特殊な工法や、あるメーカーの独自の工法を使用する場合には、その仕様書や図面なども添付する必要があります。

意匠図(建築図面)
 仕様書:どのような材料や工法を使うのか細かく決められたものをまとめたもの
 仕上げ表:どの部分にどのような材料を使用するかのを記載した表
 面積表:建物のそれぞれの面積を算定したもの
 配置図:敷地の中の建物や塀、カーポートなどの位置を示した図面
 各階平面図:各階の部屋の用途やその大きさ、位置を示した図面
 屋根伏せ図:屋根の形状や勾配を示した図面
 立面図4面:建物の外壁の仕上げや形態を示した図面
 断面図2面:建物のそれぞれの部分の高さや部屋の天井高さを示した図面
 矩計(かなばかり)図:断面をより詳しく描いた図面

 展開図:部屋の内側の仕上げやドアや窓の位置を示した図面
 天井伏せ図:天井の仕上げや形状を描いた図面(天井が特に特殊でない場合は作成しない場合もある)
 建具表:建物の内外に使用される窓や戸、ドアなどの形状や仕上げを表にしたもの
 部分詳細図:特に詳しく設計した部分の図面(作成しない場合もある)
 外構図:建物の外にある擁壁や花壇、庭、植木などの図面、この図面に排水管などの経路なども記載されることが多い

構造図
 構造設計図:どのような大きさの柱や梁を使うのか、基礎の形状や配筋などの詳細、またどのような仕様のボルトや金物を使うのかなど建物の構造材を示す図面
 構造仕様書:どのような種類の木材か、また鉄骨造の場合などでは鉄の種類などを示す

設備図
 電気図面:コンセントの場所や照明器具の位置や種類、電話やテレビ、インターホンなどの配線などを示す図面
 電気設備仕様書:電線の種類やメーカーの指定などを示す
 給排水衛生設備図:給水、排水、ガス、空調関係の配管や機種を示す図面
 給排水衛生設備仕様書:それぞれのメーカーや種類などを示す

 ※建具表や仕上げ表などは、ハウスメーカーなどでは仕様番号や記号で一括して平面図に記載されている場合もあります。

・四会連合約款の話
 さてこのようにして必要な図面や書類は揃えましたが、さらに契約当事者のそれぞれの義務と権利についてのまとめをしておく必要があります。

 具体的には、工期が変更になる場合の取り決めや、物価が異常に上昇した場合の処置、工事監理者と現場代理人などの業務の内容、契約の中止や解除に関する権利関係などを定めておく必要があります

。  このような内容は、基本的にはトラブルが発生しない限り問題にもならないことなのですが、誰がどのような業務をするのか、またトラブルが発生したときにどのように対処するのかを予め定めておくことによって、お互いに気持ちよく契約を履行することが可能になります。

 このような内容についての建築工事請負契約によく利用される約款に、社団法人 日本建築学会、社団法人 日本建築協会、社団法人 新日本建築家協会、社団法人 全国建設業協会の四つの会が昭和26年に定め、その後昭和56年から財団法人 建築業協会、社団法人 日本建築士会連合会、社団法人 日本建築士事務所協会連合会が参加して策定された四会連合協定 工事請負約款があります。

 この約款には「監理者」として建築主が直接委任して工事の監理を行うことが定められています。そして監理者も建築主と工事施工業者と共に、監理者としての責任を果たすために「工事請負契約書」に記名捺印を行います(監理者の立場と業務については「現場監理者と現場監督」の章で紹介します)。企業などが設計事務所に設計監理を依頼し、工事業者と工事請負契約を結ぶときには、ほとんどの場合この約款を使用します。

 しかしハウスメーカーや工務店に直接設計と施工を頼んだ場合は、監理者が明確に決められないことが多いと思います。ここで「明確に決められていない」というのは、実際は役所に届けられているのに、建築主が知らなかったり、積極的に監理者の業務を行っていないからなのです。

 もちろん四会連合約款のような約款に記名捺印を監理者が行い、それぞれの責任を明確化することはまずありません(このような場合は、監理者についての語及がない各社独自の約款が付いている場合が多いようです)。

・見積書も必要
 実は契約書にはまだ必要な物があります。それは見積書です。どのような建物を建てるのか十分に分かる図面と施工費の全額が契約書に書かれているのに、その明細までどうしているのだろうかと思われるかもしれませんが、実際には工事完了間際になると必ずといって良いほど必要になります。どのような場面で必要になるのかは「建築工事費の話」の章でみていきます。

 このように契約書にはどのような建物を(図面や仕様書で示す)、どのような仕組みで(約款などで役割を明確にする)、どのような費用で(見積書でそれぞれに必要な費用を明示する)建てるのかが明確にされている必要があります。