第13章  現場監理者と現場監督

・現場監理者と現場監督の違い
 まず知ってもらいたのは、基本的には「現場監理者」は、施工業者や建築主から独立した立場で、現場を検査したり調整したりする人のことをいいます。それに対して「現場監督」はその建物の建設に関する責任者であり、施工業者の社員になります。

 これが基本ですが、ハウスメーカーや工務店が設計施工で行う場合は、「現場監理者」は施工業者の社員であるか、名義だけ借りてきて実際には不在であることが多いようです。

 建物を建てる上で現場監理者は重要なポジションになりますので、ちょっと堅い表現になりますが現場(工事)監理者と現場監督のそれぞれの法的な定義とその違いを説明します(建築基準法及び、建築士法では現場監理ではなく工事監理となっていますが意味は同じです)。

 工事監理の業務の定義は、建築士法に「この法律で工事監理とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること」と定められています。

 また全ての建物は工事監理を行う必要がありますが、その中でも100m2を越える木造の建物、30m2を越えるの鉄筋コンクリート造の建物では、一級建築士もしくは二級建築士、木造建築士が工事監理を行わなければいけません。ですからたとえ木造の住宅であっても100m2(約30坪)以上の場合には、法律で資格を持った人が工事監理を行うことが定められているのです。

 具体的な工事監理者の業務は、先にも出た四会連合協定の工事請負契約約款にも定められています。

 建築工事請負契約にこの約款を使用しない場合も多いと思いますので、全ての物件に当てはまる内容ではありませんが、的確に文章によって監理者の行う業務があげられていますので概略を以下に紹介します。

・設計意図を正確に伝えるために、より詳細な図面を請負者(工事業者)に提出する。
・請負者(工事業者)で作成する図面等を検討し助言を行い承認する。
・工事材料や仕上見本、設備機器などを検査、検討し承認する。
・現場に立ち会い設計図どおり施工できているか確認し、必要な検査などを行う。
・請負者(工事業者)から出てきた請求書を技術的に審査し承認する。
・建物の完成を確認し、引き渡しに立ち会う。
・工事についての当事者の連絡を間に立って行う。

 なお全ての建物は工事監理者を誰にしたのかを、建築主が「工事監理者選定届け」により役所に届け出をしなければいけません。  現場監督とは特に法的な定義のない曖昧な言葉ですが、建設業法で定められる「主任技術者」がこれにあたるものとしてその業務などを紹介します。

 建築業法では一定の実務経験を持った人を、工事現場における建設工事の技術上の管理を行うために全ての現場に置かなければならないと定められています。また「主任技術者」の業務内容は、工事を適正に実施するため、施工計画の作成、工程管理、品質管理などの技術上の管理、職人などへの技術上の指導監督を行うとされています。

・もっと分かりやすく
 それぞれの立場が大きく異なることを示す例として、「工事監理者」は「現場監督」に指示や指導をすることができる事例を取り上げてみましょう。

 工事監理者は現場の施工状況や材料を検査して、図面や仕様書どおり現場ができておらず検査に不合格であったり正しく施工されていない場合には、現場監督に適切な指示や指導を行います。また建築主との打ち合わせによって変更された内容などを、現場に反映するために現場監督と打ち合わせを行います。

 四会連合約款では建築主と現場監督が直接打ち合わせをすることは想定されていません。工事監理者が存在する場合には、現場における建物に関する建築主への連絡事項や建築主からの連絡事項は、すべて監理者を通しておこなうように定められています。

 このことは建物のすべての状況を現場監理者が把握しておく必要があるとのことから、徹底されなければいけないことなのです。

 そうでないと、建築主が直接現場に行って「設計図では引き違いの窓でしたが、固定の窓に変更してください」と現場監督に直接伝えてしまうと、監督としては建築主の言葉ですから従わなくてはならないと考えます。

 しかし実際には役所から「緊急時のことも考えて、引き違いの窓にするように」との指導を受けいたのにそのことを知らないで変更してしまうと、現場監理者が来たときに「役所から指導を受けて引き違い窓にしているのに、誰が固定窓にしろと言ったんだ!」と怒鳴ることになります。

 この時に現場監督の取る正しい行動は「そのような変更を希望されるのでしたら、設計事務所さん(現場監理者)に直接連絡してください」と言うか、現場監理者に連絡して建築主からそのような変更の申し入れがあったと報告することです。

 建築の設計では、建物のそれぞれの部分がそれなりの理由があって決められています。図面をそのままをつくるのであれば問題が発生しませんが、現場監理者の承諾をとらずに、建築主から言われたといって勝手に変更したりすると重大なトラブルの原因になります。

 現場監督は工事を設計図どおり適正に工期内に施工することを主な業務としており、建築主と直接相談して仕様を決めたりすることはその業務に入っていません。

 また工事によって派生するお金の管理は基本的に現場監督が行います(会社によっては現場監督でなく、本社で全て決済しているところもあるようです)。その他に当然のことですが、それぞれの業種の下請けとの間の調整を行い、工事を円滑に進めれるように打ち合わせや段取りをおこないます。

 このように現場監理者は、現場が正しく施工されるように監理する役割と、工事業者と建築主の間に立って様々な調整を行う役割をになっています。

 また建築確認申請で指摘された様々な報告を行うのも監理者の業務になります(完了届けは一応建築主(発注者)の行う仕事ですが、実際には現場監理者が代行している場合が多いようです)。

・さらに具体的には
 さてそれでは実際に現場監理者はどの程度現場に足を運んでくれるのでしょうか。基本的にはこれも建築主との間の契約に基づくのですが、最低でも週に1回以上は足を運ばないと、十分な監理をすることはできません。

 また大きな建物の場合などでは、常駐監理といって現場監理者が常時現場にいて業務を行うこともあります。

 具体的にどのような部分を検査するのかなどを書くと、それだけで一冊の本になってしまいますから、一例として着工してから木造の建物の基礎を造るまでに、現場監理者が確認しなければいけない内容を示します(建物の内容によって若干内容が変わりますが、この程度の確認は必要になります)。また工事はそれぞれの段階において、現場監理者が確認しなければ先に進めないようになっています(以下の例でも各項目毎に検査を行わなければ、次の項目の工事には進めません)。

・敷地の中のどの位置に建物を建てるか明確になるように施工業者が行った縄張りを確認します。図面通りになっていなかったり、敷地が狭く制限の多い建物の場合には道路からの距離などが厳しく決められている場合などもありますので、大切な確認事項となります。

・基礎を造るために地面を掘削して、その部分が建物の荷重に耐えられる地盤であるかどうかを確認します。 ・基礎の下に敷き詰める栗石や砕石が正しく施工されているか確認します。

・基礎の配筋を確認します(栗石の上に捨てコンクリートを打設しない業者がありますが、これは型枠をつくるのに正確に位置を出せないだけでなく流し込んだコンクリートが型枠と栗石の隙間から流れ出てしまうなどの欠点があり、明らかな手抜き工事です)。

・基礎の配筋を行う時に、土台と基礎をつなぐアンカーボルトが正しい位置にあり、しっかりと固定されているかを確認します。

・基礎のコンクリートの型枠に換気口や通風口が図面通り取られて鉄筋で補強が行われているか確認します。

・コンクリートの打設を行い、その最中にサンプルを採取しておきます。1週間後と4週間後に破壊検査を行い、指定の強度が出ているか確認します。

 このように、現場を監理するのが現場監理者の役割になります。これは現場の作業を信じていないのではなく、正しく設計どおり施工されているかどうかを、施工の当事者ではなく第三者が見た方が良く判断できるだろうといった考え方から行われるものです。

 簡単な例だと問題集の解答を自分で採点していうると、どうしても自分に甘くなってしまいます。それを社会的に制度として建物の建築の際に適応したのが工事監理なのです。